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洋楽の歌詞を詩的な日本語に意訳する趣味のブログです。

ファスト・カー/トレイシー・チャップマン*Fast car/Tracy Chapman■和訳・訳詞・歌詞・日本語・対訳・Japanese Lyrics

ファスト・カー/トレイシー・チャップマン

あなたは速いクルマをもってる

あたしは

どこにでも行けるチケットが欲しい

たぶん、私達、取引できるわ

たぶん、私達

一緒にどこかにたどり着ける。

どこか、ここよりマシな場所に…

ゼロからのスタート、

失うものなんて何もない

あたしたち、きっと、

なにかを生み出すことができるわ。

あたしなんかじゃ、何も証明できないけど…

 

あなたは速い車を持っている。

あたし、ここから抜け出す計画をしてるの

コンビニエンスストアで働いてたから

ほんのちょっとのお金なら貯めてあるのよ。

そんなに遠くに行く必要はないの。

ちょっとだけ州境を超えて、街に入って

あなたとあたし、ふたりとも職を見つけて

ついには生きている意味さえも見つけるの。

 

見てのとおり、

私の老いた父親には問題がある。

酒と共にある人生、

それがあの人の人生。

この老体じゃ働くことはできないよって

それがあの人の言い分。

それにしては、ずいぶん若い体ねって

私は言ったけどね。

ママは行っちゃった、

そんな父親を置いて。

ママはあの人と一緒にいるよりも

マシな人生が欲しかったの。

あたしは

「でも!誰かが

あの人の面倒をみなきゃいけないでしょ!」

って言っちゃって、

だから、あたし、

学校をやめちゃったの、

そういうわけなの。

 

あなたには速い車がある。

飛んでいくのに充分なくらいに速いのかな?

私達、決めましょうよ。

今夜ここを去るのか、

この生き方でこのまま、

ここで死んでいくのか?

 

ねえ、あたし覚えてるの。

あなたの車で走った、

あの車で走った時のこと。

 

まるで、

お酒に酔った時みたいに、

スピードが速く感じられて、

あたし達の前に

街の光が横たわっていて

 

あなたの腕が

私の肩を包み込むのが

とても心地よくて

 

だから、あたし、

あたしね、

感じたの

 

ここがあたしの居場所なんだって

だから、あたし、

あたしね、

感じたの

 

なにものかになれるかもしれないって。

なにものかに…

なにものかに…

 

 

あなたは速い車を持ってる。

クルージングに行って、

私達の人生を楽しむの。


あなたはまだ働いてないけど、

私がスーパーのレジで働いてるから

きっと、全て、うまく行くわ。


あなたが仕事を見つけて、

私の給料が上がれば、


そしたら、二人で

このシェルター(低所得者用住居)を出て

もっと大きな家を買って、

郊外(の閑静な住宅地)で暮らすの。

 

ねえ、あたし覚えてるの。

あなたの車で走った、

あの車で走った時のこと。

 

まるで、

お酒に酔った時みたいに、

スピードが速く感じられて、

あたし達の前に

街の光が横たわっていて

 

あなたの腕が

私の肩を包み込むのが

とても心地よくて

 

だから、あたし、

あたしね、

感じたの

ここがあたしの居場所なんだって。

 

だから、あたし、

あたしね、

感じたの

なにものかになれるかもしれないって。

なにものかに…

なにものかに…

 

あなたは速い車を持ってる。

私、毎月の支払いが

全部できるくらいの仕事を見つけたの。

 

あなたはいつも夜遅くまで

バーで飲んでて

自分の子供より

友達と会ってることのほうが多い。

 

私は、いつだって、

いい方向に向かいたいと思ってる。

あなたと私で一緒に考えれば、

きっといい方法がみつかると思ってた。

 

私にはプランも行く場所もないわ

だからあなたの早い車に、

このまま乗り続けるの。

 

あなたには速い車がある。

飛んでいくのに充分なくらいに速いのかな?

 

ねえ、あなた。

ここで決めましょうよ。

今夜ここを去るのか、

この生き方でこのまま、

ここで死んでいくのか?

 

 

Fast car/Tracy Chapman 

You got a fast car
I want a ticket to anywhere
Maybe we make a deal
Maybe together we can get somewhere
Any place is better
Starting from zero got nothing to lose
Maybe we'll make something
Me myself I got nothing to prove

You got a fast car
I got a plan to get us out of here
I been working at the convenience store
Managed to save just a little bit of money
Won't have to drive too far
Just 'cross the border and into the city
You and I can both get jobs
And finally see what it means to be living

See my old man's got a problem
He live with the bottle that's the way it is
He says his body's too old for working
His body's too young to look like his
My mama went off and left him
She wanted more from life than he could give
I said somebody's got to take care of him
So I quit school and that's what I did

You got a fast car
Is it fast enough so we can fly away?
We gotta make a decision
Leave tonight or live and die this way

So remember when we were driving driving in your car
Speed so fast I felt like I was drunk
City lights lay out before us
And your arm felt nice wrapped 'round my shoulder
And I had a feeling that I belonged
I had a feeling I could be someone, be someone, be someone

You got a fast car
We go cruising, entertain ourselves
You still ain't got a job
And I work in a market as a checkout girl
I know things will get better
You'll find work and I'll get promoted
We'll move out of the shelter
Buy a bigger house and live in the suburbs

So remember when we were driving driving in your car
Speed so fast I felt like I was drunk
City lights lay out before us
And your arm felt nice wrapped 'round my shoulder
And I had a feeling that I belonged
I had a feeling I could be someone, be someone, be someone

You got a fast car
I got a job that pays all our bills
You stay out drinking late at the bar
See more of your friends than you do of your kids
I'd always hoped for better
Thought maybe together you and me find it
I got no plans I ain't going nowhere
So take your fast car and keep on driving

So remember when we were driving driving in your car
Speed so fast I felt like I was drunk
City lights lay out before us
And your arm felt nice wrapped 'round my shoulder
And I had a feeling that I belonged
I had a feeling I could be someone, be someone, be someone

You got a fast car
Is it fast enough so you can fly away?
You gotta make a decision
Leave tonight or live and die this way

トレイシー・チャップマンの歌う"Fast Car"。じっくり聴いてしまいますね。1988年当時も何回かMTVなどで観る機会がありましたが、演奏が終わった後のはにかんだ笑顔も印象的でした。(冒頭はグラミーの受賞式ですね)

◆トレイシーのプロフィールです(Wikipediaから):

:労働者階級の多いオハイオ州クリーブランドで生まれた。歌手の母親を持ち、幼い頃からギターを練習、幼少時から自作の曲を唱う。奨学金でマサチューセッツ州メッドフォードのタフツ大学に通い、生物学・獣医学・文化人類学、そしてアフリカについて学ぶようになり、次第にフォーク・ロックに魅かれ、コーヒー・ハウス(喫茶店)やナイト・クラブなどで、作詞・作曲した歌を唱っていた。

 まもなく、1987年にエレクトラ・レコードと契約、デビュー・アルバム「トレイシー・チャップマン」(Tracy Chapman, 1988)を発表。それまでの生い立ちで経験してきた社会の矛盾や、大学で学んだアフリカの知識などをベースに、社会問題をストレートかつシンプル表現したこのアルバムは大ヒットとなり、批評家などからも高い評価を受けた。翌年、このアルバムは第31回グラミー賞で、「最優秀新人賞」「最優秀女性ポップス・ヴォーカル賞」「最優秀コンテンポラリー・フォーク賞」の3部門を獲得し、世界で1,000万枚もの売上げを記録した。

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◆この曲"Fast Car"はだいたいの意味はつかんでいたんですが、彼の"速い車"でこの町を出て遠くまで行くんだと二人で空想する、でも実際にはそんなことはできず、また毎日死んだように生きて…という曲、だと思っていました。でも改めて訳してみると、

この町や働かない父親の面倒を見る生活を飛び出していく夢を二人でみてたはずが、いつの間にか、彼も自分の父親のように仕事に着かず酒飲みに…。これからは一人で速い車でどこにでも行ってしまえばいい…。

もちろん日本でもこうした家庭や社会があると思いますが、この当時のアメリカの社会でも…共感できる沢山の人たちがいたんだよなあと思います。うーむ深い(-_-;)。

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You got a fast car
But is it fast enough so we can fly away
We gotta make a decision
We leave tonight or live and die this way

で「We(あたしたち)」と言っていたところが、ラストには、

You got a fast car
But is it fast enough so you can fly away
You gotta make a decision
You leave tonight or live and die this way

「You(あなた)」に変化しています。

彼女の父親はお酒の問題を抱えている。

「この老いた体じゃ働けない」というのが彼の言い分だが、それほど歳をとっているわけじゃない。母親はそんな父親に見切りをつけ、出ていってしまった。でも、彼女はその家に残って暮らしている。誰かが父親の面倒をみなければならないからだ。そのために学校も辞めた。

彼女はコンビニエンスストアで働いている。変わりばえのしない毎日の中で、心を擦り減らしながら、少しづつ貯金をしている。なにか目的があるわけでもなく、ただ貯金をつづけている。

彼女の恋人は速い車を持っている。ある日、彼に肩を抱かれながらドライブをした。車がスピードを上げると、街の灯りは流れ去り、どこまでも飛んで行けそうな気がした。そのとき、彼女はこことは違うどこかへ行きたいと思った。そうすれば、きっと自分も変われるはずだと。

彼女は恋人にその気持ちを打ち明ける。州境を超えて都会へ行きたい。少しだけど貯金はあるし、そこでお互い仕事を見つければいい。そうすれば、生活することの意味がわかるはず。ふたり一緒ならきっとやっていける。今夜どうするかを決めましょう。ここを出て行くのか、死ぬまでこうして生きていくのか。

ふたりは町を出る決心をする。車がスピードを上げると、どこまでも飛んでいけそうな気がした。

今、彼女はスーパーマーケットで働いている。でも、恋人には働く気がない。彼は夜ごと酒を飲み、子供よりも友達と過ごす時間の方が多い。これからはうまくいくと思っていた。恋人も仕事を見つけて働き出し、自分は昇級して、いつか郊外の大きな家に住んで…。でも、そうはならなかった。

彼女の恋人は速い車を持っている。それさえあれば、どこへだって飛んで行けるのではないだろうか。今夜、彼女は彼に決断を迫る。この家を出ていくのか、死ぬまでこうして生きていくのか。

トレイシー・チャップマンの「ファスト・カー」。この歌が持つテーマは重く、そして深い。当時はこんなストーリーとは知らずに聴いていたが、歌詞の意味を理解する前から、どんな歌なのかはわかっていた気がする。それほど彼女の歌声は悲しく、胸に迫るものがあったからだ。

恋人の速い車は、彼女が抱いた希望の象徴だ。その速さが、彼女に人生を変えられると思わせた。簡単ではないことくらい彼女もわかっていたはずだが、その気持ちにすがるしかなかったのだろう。そして、曲の最後で、彼女はそれを手放そうとする。すべては幻想だったのだろうか? 恋人も、彼の速い車も。

結局、彼女の希望が叶うことはなかった。それでも、僕はこの歌を聴くたび心が洗われ、勇気づけられる。厳しい現実を生きる彼女の姿に、その魂の気高さに、胸を打たれる。そして、これからもつづいていくであろう彼女の人生に幸せが訪れることを願うのだ。

この曲がリリースされた1988年、アムネスティー・インターナショナルが主催したコンサート『ヒューマン・ライツ・ナウ』で、僕はトレイシー・チャップマンの演奏を聴いた。彼女はまだデビューしたばかりの20代前半の女の子だったが、その歌声の凛とした佇まいを今でもはっきりと思い出すことができる。

彼女は歌った。ここを出ていくのか、死ぬまでこうして生きていくのか。今夜決めなくてはいけないと。人生は決断の連続だ。そのひとつひとつが未来へと繋がっていく。

気高くあれ。そして、幸あれ。